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二千年の涙

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    2018-11-02
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作者コメント:

始「凡俗うぅっ!後生じゃ、力を貸せ!!」珍しいこともあるもので、天上天下唯我独尊を絵に描いたような大帝陛下が、この俺に泣きついてきた。いやいや、力を貸せと言われましても、まずどういう事情なのか分からないことには話になりませんよ、大帝陛下?始「康熙じゃ!康熙のやつめ、ヘソを曲げて我と口もきいてくれぬのじゃ!!」…はあ!?いったいぜんたい、なんでまたそんなことに?始「…う、うむ。あれはパチンコで惨敗を喫し、ちと虫の居所が悪かったときでの。ちょうど玄関先で、そちを送り出しいってらっしゃいのキスをしてルンルン気分の康熙と鉢合わせてな。つい気が立って『そなたほどの器量良しならば、男などそれこそ選りどり見どりであろうに、かような種馬に惚れようとはつくづく物好きなものよ。趣味の悪さと見る目の無さは、父親譲りということかのう』と、口をすべらせてしもうた。ほんの他愛もない、軽口のつもりだったのじゃ。なのにあやつめ、最初は驚いたように目をぱちくりさせ、次に見る見る顔を真っ赤にして、一言も発することなく目の前でドアをばたんと叩き閉めおった!!無礼であろう!?無礼であるとは思わぬか!?我は真祖・秦始皇じゃぞ!!偉いんじゃぞ!?」うわ、父親と母親と彼氏いっぺんに侮辱されたのか?そりゃ、黒陛下だって怒るわなぁ…始「とはいえ、なにぶん可愛い孫娘のこと。ここは寛大なる我が慈悲により無礼は水に流す、機嫌を直せ…と金銀財宝を積み上げ山海の珍味も並べたが、あやつめ一向に口をきかぬ。それどころか、そっぽを向いて顔を合わせようともせぬ。それゆえ、かれこれもう三日も言葉を交わしておらぬ。…これが、真祖たる我に対して孫がして良い仕打ちか!?可愛い孫の成長を見守るが唯一の楽しみの年寄りに、あやつは死ねと申すのか!?いかに我が不老不死とは申せ、孫に嫌われては生きておられぬ!!不死身といえど死んでしまう!!のう、後生じゃ凡俗。どうか機嫌を直すよう、康熙に言うてやってくれぬか。そちの頼みとあらば、康熙も無下には断れまい…」あれ?怒りっぽいは怒りっぽいけど、黒陛下ってそんなに根に持つタイプだったっけ?…とすると、もしかしたらもしかして?あの、大帝陛下?念のために訊いときますけど…ごめんって、一言でもいいから謝りました?始「馬鹿を申すな!真祖たる我が他の者に対して非を認めるなど決してありえぬ!あってはならぬ!この二千年の長きに渡り、頭を下げたことはおろか、詫びたことなど一度たりとてない!!左様な世迷い言を口走るなど、不敬の極みと心得よ!!」うん、知ってた(諦め)。それじゃあ申し訳ないけど、俺は力になれませんよ。というかそもそも、俺がどうにかできることじゃないみたいだし。始「…そうか。そちも我を責めるのか。ならばもはや遠慮は無用!力づくでも康熙から泣きどころであるそちを奪い、我を責めた愚を思い知らせてやるまでのことよ!!ふふっ、おとなしゅうせい。我が熟成されし二千年の肉壺をもってすれば、そちを籠絡して桃源郷にいざない、骨抜きにするなど児戯にも等しい!小娘などとは比べ物にならぬ法悦の骨頂、存分にその身に焼き付けるが良いわ!!」不意に、黒い人影が大帝陛下の背後から静かに、それでいて有無を言わせない口調で語りかける。黒「その腰。あとほんのちょっとでも下ろしたら、この先もう一生口きいたげないし、ひ孫が生まれてもおんぶもだっこもさせたげない。それどころか『あのおばあちゃんは悪い人だから近寄っちゃダメ!』って小さい頃から言い聞かすわ。それでもいいんなら、その腰、下ろしてもいいわよ…おばあちゃん?」俺はとても珍しい光景を目にしていた。この二千年間、誰一人として目にしたことのない光景だ。始「しーちゃんが悪かったです。ごめんなちゃい…」ううむ、ぽろぽろ涙をこぼして土下座する真祖・秦始皇大帝陛下か。これはこれで萌えるものがあるな。
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